「うわ、ヒィ。慣れてるー」


さっさかと包まれていく石膏像を見ながら美月ちゃんが言う。
ええ、もう私プロですから。

いつものように梱包を終え、私は先生と一緒に一階の事務室まで石膏像を運ぶことにした。


「お前は軽い方でいいぞ。俺が、マリアを持つ」

「言われなくとも。つーか、プシュケも充分重いんですけど」


体の小さい私だが、意外に力持ちである。
キャンバスや石膏像としょっちゅう絡んでいたら、自然と力が付いた。
大きな塊を抱え、先生と階段を下りる。


「これ置いたら、お前のを持ってやるからゆっくり来いよ」

「先生優しい。どうしたんですか」

「うるせえよ」


先にスタスタと行ってしまった先生の言葉に従い、のんびりと下りることにした。


「あ、ブラバンの音が聞こえる。ここのメロディはクラリネットだったよね」


楽器の音に詳しくはないけど、美月ちゃんが教えてくれるので少しだけ分かるようになった。


「ヒィ正解! うーん、少しテンポがズレてるなあ。瑠璃ちんかなあ、この音」


美月ちゃんが耳を澄ませながら言う。


「うお、マジでー? 急いで行く!」


後ろの方で、バタバタと階段を駆け下りてくる男子たちの気配がした。


「待てって、オレも行くし!」

「うわ、危ねえ! 押すなよ!」


おっと、少し横にずれてあげよう、と思ったその時だった。
どん、と後ろから押された。