「あ。石膏像が出てる。デッサンしようかな」


部室の中央に置かれているのは、先生のお気に入りのアリアス像だった。


「うえー、またアリアスか。苦手なのに」


この像は髪の毛が長くてうねうねしているのが特徴で、非常に描きづらいのだった。
もっとすっきりしたうなじのやつがいい。

しかし、アリアスは先生のお気に入りなので、登場率が非常に高い。
先生曰く、アリアスには匂いたつ色気があるらしく、それを描きとれというのだ。
色気ねえ……。
私はアリアスよりも、観音立像のほうが色香があると思うけど。
慈愛に満ちた目とか、ふわっとした頬とか、すごくいい。


「あ、福原ぁ。プシュケとマリア首像、貸し出しな」

「梱包っすね。りょーかいです」


うちの高校の石膏像の所持数がハンパないことは前にも言ったが、そのせいで他校に貸し出すことも多い。
戻ってきてすぐ他に借りられていく、なんてこともしょっちゅう。

お蔭で、部員たちは無駄に梱包能力が高くなっているのだった。
そんな中でも、どうやら私が一番手際がいいらしく、私はこの貸出において、担当のような役割を仰せつかっている。面倒だ。


「今日の夕方には出すからよろしく!」

「それ、すぐにやれってことじゃないっすか」


デッサン帳を出そうとしていた手を止め、ため息をつく。
いつものことだけれど、もっと早く言って欲しい。
ああもう、面倒。

部室の端に積み重ねている段ボールとエアキャップ、新聞紙の束を掴んで、私は早速石膏像の梱包に取り掛かった。