ちょっと考えれば、分かる話だった。
しかも、私は一度、長尾くんにそういう目で見られていたのだから。

ただ、美月ちゃんという存在が当たり前に横にいるものだから、当たり前に見えているものだから、人の目にどう映るかなんて考えもしなかったのだ。


「長尾くん、ありがとう」


余計なトラブルにならなかったのは、長尾くんの機転のお蔭だ。
頭を下げて、「でもよかったの?」と訊く。


「私の事好きだなんて、嘘でも言っちゃって。園田くんのお姉さんの耳に入ったら大変じゃない?」

「うお」


大袈裟に胸を押さえた長尾くんだったが、すぐにクスリと笑う。


「とっくに吹っ切ってますのでご心配なく。今のトコ、誤解されて困る子もいないからいいよ。福原さんこそ、大丈夫? 好きな奴とかいるんじゃないの?」

「私も大丈夫。むしろ、私の人生で男の子と噂になる機会がとうとう到来したのかと感動してる」


真顔でそう言うと、長尾くんや美月ちゃんが笑った。
見れば、園田くんまでもが笑っている。


「あはは、面白え。福原さん。そんなこと言うタイプだったんだな」

「ふお! あ、まあ。うん」


今まで向けられたことのなかった園田くんの笑顔を目の当たりにして、思わず瞬きが増えてしまう。
美月ちゃんだけの貴重な笑顔を、私なんかにいきなり向けるの、止めて欲しい。
心臓に悪い。
ドキドキした心臓のあたりをそっと押さえた。


「あはは、福原さんおもしれえ。噂くらい、いくらでも機会があるでしょ」


長尾くんに話しかけられて、ちょっとホッとする。
誰にでも向けられる笑顔なら、受け入れやすい。


「いや、長尾くんと一緒にされたら困る。そんなの、ないから」

「そんなもんかなー。あ、さっき、陽鶴ちゃんって呼んじゃったけど、いい? 口説いてる子に苗字呼びは堅苦しいかなって」

「全然いいよ。どう呼んでも」

「じゃ俺のことも、穂積で」

「分かった」


それから、四人で話をしながら美味しく食事をした。