「常識じゃ考えられない話をしてたし、仕方ないよ。園田くんも、私がふざけてるって思ったもん」

「まあ、うん。杏里がそう考えるのもよく分かる。俺だって、最初は何言ってんだこの子、って思ったもん。美月ちゃんのことしか考えてない杏里だったら、瞬間的に腹を立てても仕方ない」


缶を両手で弄びながら、長尾くんが「でもさあ」と視線を彷徨わせる。


「どうして、福原さんなんだろうね。杏里じゃなくて。ね、美月ちゃん」

「分かんない、って美月ちゃん言ってる。そこはもう二人で何度も話したとこなんだけど、本当に理由が分かんないんだ」

「ふうん、そっか。上手く行かないね」


長尾くんの言葉に、頷く。
本当に、上手く行かない。せめて、幽霊であっても園田くんと美月ちゃんが再会できていればと思う。


「とにかく、杏里に美月ちゃんのことを知ってもらいたいという二人の気持ちは、分かった。俺、協力するよ」


長尾くんの言葉に、安堵する。


「ありがとう」

「今日見たから分かるだろうけど、杏里は酷い状態だろ? 美月ちゃんの霊でも、どれだけ支えになるか知れない。だから、何でも協力する」


こっくりと頷いた。あんな状態から少しでも抜け出せれるなら、と私も思う。
それから、美月ちゃんに向かって「よかったね」と言う。
美月ちゃんも、嬉しそうに笑ってくれた。


「早い方がいい。明日の今頃、俺が杏里をここに連れてくる。そこで、もう一度話をしよう。
多分、あいつは福原さんを見ると立ち去ろうとすると思う。そこを俺がどうにか足を止めさせる。
福原さんは、俺にしたみたいに、美月ちゃんしか知り得ない話をいきなりかましてくれ。そしたら杏里も耳を貸す気になると思う」

「わかった。美月ちゃん、とびきりの情報をよろしく」

「うん。あーくんがすぐに分かってくれるようなの、考える!」


空に薄墨が広がりきるまで、私たちは話をしたのだった。