「浴衣を買ったのさ、私。この夏の間に、自分で着付けができるように教室に通うんだ」


明日香は私の友人なのに、浮き足立ってる側の人間だ。
今の時点で、夏休みの予定がギチギチに詰まっている。

友人同士であるはずの私たちの間には今、深い溝が横たわっているわけだ。


「花火大会が二つあるし、浴衣で行けば入場料が無料になるイベントもあるんだ。絶対、着れるようになんなきゃ」


明日の休みには、新作の水着を買いに行くのらしい。
夏休み前から予定が詰まってるようですね。


……まあ、分からなくもないよ?
高校二年生にして、初めてできた彼氏との初めての夏だもんね。
そりゃあ、夢とか希望とかたくさん詰まった夏なんでしょうよ。
その胸には幸せしか詰まってないんでしょうよ。

羨ましいな、くそ!


「いいな、彼氏。私も欲しい」


すっかり温くなったパックのジュースを飲みながら言うと、明日香がちらりと私に視線をよこした。
ピンクのグロスの乗っかった唇を尖らせて、「どの口がそんなふざけたこと言ってんのさ」と言う。


「どの口って、この口。だって私、フラれたんだよ?」


ストローから口を離し、私も明日香のように唇を尖らせてみた。
無色のリップクリームしか塗っていない唇は、きっと明日香のように可愛らしく濡れてはいないだろう。
そんな私に、明日香が続ける。