苑水公園は噴水や幾つかの遊具がある、この辺りでは大きめの公園だ。
ランニングコースやドッグラン、テニスコートもある。

約束の時間の五分前。
私は噴水のそばにあるベンチに腰掛け、長尾くんを待っていた。

光を受けて煌めく水しぶきを眺めながら、美月ちゃんと話をする。
話題は、美月ちゃんは少しだけ浮いているけれど、空を飛べたりしないのかということ。


「空を飛ぶのは、できそうにないな。何かね、意識があると常識の範囲内のことしかできない」

「っていうと?」

「二階にいて、床をすり抜けて一階に降りる、とかっていうのができないの。だけど、二階で寝ていて、気づいたら一階の空中で寝てた、なんてことはあるのね」

「ふむふむ」


頷きながら聞く。
そんな時は戻りたいと慌てればすり抜けられるらしい。
だけど、それを自分の意志でやろうとすると、できないらしい。不思議だ。


「ヒィとは紐で繋がってるような状態だし、もし飛べてもひゅんひゅーん!とはいかないよね」

「あ、そっか。風船みたいになっちゃうのかな」

「ふふ、面白いそれ。ヒィの手元であたしが浮いてんの」


ベンチとベンチの間隔がだいぶ離れているし、みんな噴水の方を眺めているので、ぶつぶつ独り言を言う女子高生に誰も気づくことはない。
私たちはのんびりと話をすることができた。


「あ。穂積くんが来た」


ふっと視線を投げた美月ちゃんが言う。
その目線の先を見れば、大きなスポーツバッグを肩からかけている長尾くんが歩いてこちらに来るところだった。

園田くんより少し背が低いけれど、決して低いわけではない。
スタイルが良く、シルエットは彼の方がバランスが取れているかもしれない。
そんな体格と、甘い顔立ちの彼は、とても目立っている。

ベンチから立ち上がった私に気づいた長尾くんが、軽く手を挙げる。