「断れないじゃん、それ」

「こっちだって必死なの。断ってほしくないの。じゃあ、いい?」


訊くと、長尾くんが降参、というように両手をあげた。


「五時に終わる。学校の先の苑水公園分かる? そこの噴水のとこにいて」

「分かった。では、また」


言いおいて、私はその場を後にした。


「ごめんね、ヒィ。さっき、あーくんはヒィに酷い言い方した。本当にごめん」


ズンズンと大股でグラウンドを横切る私を追って来る美月ちゃんが、申し訳なさそうに言う。


「謝ることじゃないよ。
園田くんがすぐに信じてくれないかもしれないっていうのは、考えてたことだもん。
怒ることだって、私の中では想定内」


私の言うことを信じてもらえない場合、激高するだろうということはわかっていた。
ただ、あんなにも迫力があるとは、思ってなかったけど。


「あと、長尾くんのことも、ごめん」

「それこそ、美月ちゃんが謝ることじゃないよ。長尾くんの、園田くんを心配する気持ちは分かるし。本気で怒ってるわけじゃないの」


だけど、私を空気も読めない卑劣な女扱いしたことだけは、覚えておいてやる。
私は心の狭い女なのだ。


「で、本当にあの長尾くんは信用できる人なの? 言っても大丈夫なの?」

「うん。穂積くんなら絶対大丈夫」

「ふうん」


日陰に入った私は、振り返って陸上部の方を見た。
ゴールテープを真っ直ぐに見つめて走り出す園田くんと、私の方を見ている長尾くんがいた。