それから、私はコンビニで買ってきたお弁当を食べたり、美月ちゃんを描いたりして過ごした。
美月ちゃんはブラバンの音楽を聞きながら、時々メロディを口ずさむ。


「ねえ、美月ちゃん。これ、なんていう曲なの?」

「マーチの、『プロヴァンスの風』っていうんだよ。今年のコンクールの課題曲なんだけど、サビの部分がすっごくかっこいいと思わない? あたし、これ大好きなんだ」


美月ちゃんは本当にこの曲が好きなのらしい。耳を傾けながら教えてくれた。


「うん、すごくかっこいい」


聴きながら頷く。
耳に残るメロディは、無性に衝動を焚きつけられる。

私は音痴で、音楽センスというものがない。
どこかに売っているのなら、一つ買い求めた方がいいというくらいだ。

そんな私が、この曲を聴くと何かしなきゃ! 今なら何でもできる気がする! みたいな気分になる。
それを素直に美月ちゃんに言うと、美月ちゃんは笑いながら頷いた。


「それ、あたしも! どんな難解な楽譜でも吹きこなせる気がしちゃうんだ。この曲!」

「あ、ほんと? よかった。見当違いな感覚なのかと思った」

「何それ。音楽は好きに聴いていいんだよ」


私たちはクスクスと笑った。


「あ。二時だ」


気付けば、壁掛け時計は目的の時間をさしていた。