「えー! それ、羨ましいんですけど! ブラバンなんて、自分の家から扇風機を持ち寄ってるんだよ。しかもそれでブレーカー飛んじゃって、教頭先生に物凄く怒られたの!」

「美術部って、実は校外でも有名なんだよ。だからすっごく優遇されてるんだ」


我が校の美術部は、著名な画家を何人も輩出したという素晴らしい実績がある。
そのお蔭でとても名が通っていて、美術部の部長を務めたという実績があれば、どんな美大の推薦もしてもらえるくらいのものだ。

校長室や正面玄関に飾られている絵画は全てその卒業生たちからの寄贈品で、とても価値のある物ばかり。
本来なら、美術館に展示されてしかるべきな名作が、素知らぬ顔をしているのだ。

だけど、そんなことは一般の生徒は知らない。
よく分かんない絵がそこかしこに飾られてる、くらいの認識だ。

美月ちゃんもきっと、そうだったんだろう。びっくり顔で部室内を見渡していた。


「あれ? 部員さんは、他にはいないの?」


美月ちゃんが、ふと気づいたように言った。
今は十時に差し掛かった頃だけれど、部室内には私と美月ちゃんしかいないのだ。


「結構いるよ。でも、美術は個人プレーだし、気分が乗る乗らないがあるからね。みんな描きたいときにふらっとやって来て、描いてく感じなんだ」

「ふうん。そういうのは、分かる。楽器も、気分がのらないときは綺麗に鳴らないの」

「あ、音楽もそうなんだね。でも、考えてみたらそうだよね。
両方とも、自分の中の感情とか想いを発露させるものだもんね。
あ、と。そうだ。陸上部来てるかな」


私は窓際まで行って、下に広がるグラウンドを見下ろした。


「わあ、ここからだとグラウンドが見渡せるんだね」


私の横に来た美月ちゃんが言う。


「そうなんだよ。うー、ん。今日は、陸上部は午後からみたいだね」


グラウンドには、サッカー部と女子ソフトボール部がいた。端の方ではアメフト部が筋トレをしている。

クリ校は運動部も充実しているので、練習場の奪い合いは日常化している。
体育館やグラウンドはタイムテーブル制になっており、時間刻みで練習時間をとっているのだ。


「そうだね。これは、二時からかなあ」


園田くんと長く付き合っている美月ちゃんだから、陸上部の練習時間帯など私より詳しいだろう。