「オレ、美術館に社会見学に来たんじゃないんだよ。
ルノワールだとか、なんとかブルーだとか、解説してもらいたいわけじゃない。
オレがバカだって思ってるんなら、その通りだよ。
超がつくくらいバカだよオレ。
陽鶴ちゃんの言ってること、全然意味分かんなかったもんな」


普段はおっとりしゃべる彼が、早口でまくし立てていく。
スローな口調に慣れてしまっていた私は聞き取るだけで精一杯だった。


「え、えっと」


なんとか彼の言葉を理解する。
しかし、ほんっとうに、意味が分からない。

解説なんて、した?
私は少しだけ自分の知ってる話をして、彼にもっと絵の良さを知ってもらいたいと思っただけなんだけど。

いつもニコニコとしていた彼は、今はひどく顔を歪めていた。
そして、私に苦々しげに言った。


「半年くらい陽鶴ちゃんと仲良くしてたけどさ。元々オレのこと好きじゃないんだもんな。この先もきっと、そうだよな。残念だけど、もう会わない」


彼はくるりと背中を向けた。


「じゃあね!」

「え? え? 待ってってば!」


私が止めるのも聞かず、彼は一度も振り返りもせず立ち去ってしまった。


――高校二年生の、六月最後の日曜日。

落ちて行く太陽が、空を綺麗なオレンジ色に染めた夕暮。
私は、もしかしたら付き合うようになるのかもしれないと思っていた男の子に、いきなりフラれたのだった。