「……そっか。やっぱり、美月ちゃんには触れられないんだね」


分かってはいたことだけれど、そうなんだろうと思っていたことだけれど。
それでも、ものすごいショックを受けている自分がいる。

もしかしたら、温かな彼女の肌に触れることができるんじゃないかと、微かに期待していたのかもしれない。
彼女は生きていると、期待していたのかもしれない。

いや、していたんだ。
だって彼女は、あまりにも鮮やかなんだ。
なのに。


「ほんとに、死んじゃってるんだね……」


言葉を絞り出すと、美月ちゃんが目じりに涙を残して笑った。


「今さら何言ってるの。陽鶴ちゃんったら、あたしのお葬式にだって来てたくせに、おかしい」

「ごめ……。だってあまりにも、美月ちゃんは美月ちゃんで、私の前にいるから……」


美月ちゃんが、私に指を伸ばした。頬に触れるか触れないかのところで、止まる。


「やだなあ。泣かないでよ、陽鶴ちゃん」


私の目からは、気づかない間に涙が流れていた。


「だ、って……」


声が詰まる。視界が滲む。


だって、死んでなんて欲しくなかった。
世界中の奇跡を掻き集めてでも、私は彼女に生きていて欲しかった。
だから、こんなの、認めたくない。
嫌なんだ。


「泣かないで。陽鶴ちゃん、疲れるとまた倒れちゃうかもしれないから、ね?」

「だ、ってぇ……」

「陽鶴ちゃんが泣いたら、あたしだって、また泣いちゃうから……」


美月ちゃんの目に、涙があふれる。
私の拭えない涙が。


「ごめ……、美月ちゃ……」


私たち二人は、触れあうことのできないまま、向かい合ってただ泣いた。



それが、私と美月ちゃんの、夏の始まりだった――。