「驚いただけ、びっくりしただけなの。だから、そんな風に言わないで。美月ちゃんを見て、嫌だなんて思うわけないじゃない!」


まくし立てるように言うと、美月ちゃんが大きな目をぱちくりさせた。
艶やかな唇が「ほんと?」と動く。
私は、嘘でないことの証にコクコクと何度も頷いた。
そうすると、美月ちゃんがいつものひまわりの笑顔を浮かべてくれた。


「だったら、すごく、嬉しい」

「ほんとだよ。本心だよ。だから、大丈夫」

「よかったあ。あたし、陽鶴ちゃんに拒否されることも覚悟してたんだ」


美月ちゃんの肩から、力が抜けた。それから、深々と頭を下げる。


「ありがとう。あの、あたし、陽鶴ちゃんから離れられるように頑張るので、少しの間、一緒にいることを我慢してください」

「我慢なんて、そんなことないよ」


彼女と一緒にいることを、そんな風に思うものか。
ただ、どうして私なんだろう、とは思う。
だから、私はそのことを美月ちゃんに言ってみた。


「うん、そうなんだよね。例えば、あたしに思い入れのある人、という条件なら両親やあーくんになると思うの。でも、三人ともあたしが見えなかった。
あたしのことが見えたのは、陽鶴ちゃんだけ。
で、陽鶴ちゃんとあたしの特別な繋がりを一生懸命考えたんだけど、他の人には無くて、陽鶴ちゃんにだけある、って条件は思いつかないんだよね」


顎先に手を添えて、考えながら言う美月ちゃんに頷く。


「……うん。そうだよね」

「他に思いつくのは、陽鶴ちゃんが霊感持ち、っていうの? そんな能力があるか、なんだけど」


チラリと私を見た美月ちゃんに対して、首を横に振る。


「ない。今まで霊的経験なんて、したことがない」


祖父母が亡くなった時も、愛犬のラブリが亡くなった時も、死後の邂逅みたいな特殊イベントはちっとも起きなかった。
心霊体験と呼ばれるようなことは、生まれてこの方一度も経験していない。

霊感と言われるような特殊能力は、残念ながらありません。