「美月ちゃん? どうかした?」

「あのさ、陽鶴ちゃん。あたし、これからどうしたらいいんでしょう?」


彼女が妙にかしこまって、私に聞いた。


「え?」

「あたし、どうしたらいいのかな。教えて」

「教えて、って……」


私は目の前の彼女を見つめ返すことしかできなかった。

今の私は状況に驚きすぎていて、色んな感情がないまぜになっていて、正直に言うと動揺しまくっている。
頭の中の整理ができていない。
そんな中、どうしたら、なんて訊かれたって答えようがない。

返事に困っていると、美月ちゃんが口を開いた。


「あの……お願いなんだけど。お払いとかは、勘弁して欲しいんだよね。
あたし、恐怖特番とかでそういうシーンを何回か観たけど、あれってすっごく怖いし、霊の側はめちゃくちゃ苦しんでるじゃない?
ただでさえ死んじゃった訳だから、そういう辛いのは、避けたいなあって」


美月ちゃんはぶるぶるっと体を震わせる仕草をした。


「だ、大丈夫。そんなことしないよ」


私も観たことがあるけれど、ああいうのって悪霊と呼ばれる類のものがされていたはずだ。
それに美月ちゃんが当て嵌まるわけがない。


「ほんと? よかったあ」


美月ちゃんが肩で大きく息をついた。
胸をなでおろしているところをみると、本気で『お祓い』を怖がっていたらしい。


「しないよ、そんなこと。するわけがない」

「ありがとう! でもさ、さっきも言った通り、あたしは本当に陽鶴ちゃんから離れられないの。
せいぜいが、この部屋から出るくらいの距離しかとれない。
そういうの、嫌でしょ? 幽霊なんて怖いだろうし……気持ち悪いよね」


彼女の顔つきが少し暗くなる。ほんとごめん、と言って私に頭を下げた。


「陽鶴ちゃんに付いていかなければよかったんだ、ってすごく反省してる。あの時あたしを見て、気を失うくらい怖かったんだよね。それなのに、憑りついてるなんて、さ……」


うなだれた美月ちゃんを見て、慌てた。


「ち、違う! 気持ち悪いとか、怖いとか、そんな気持ちはないよ! ただ、本当に驚いたの。だって、こんなこと、常識じゃありえないんだもん!」


それは本心だ。
だって、怖いと思うには美月ちゃんは余りに生身じみていて、そして可憐に可愛いのだ。
彼女が幽霊であるとして、気味悪いとか考える人間は決していないだろう。