しかし、待てど暮らせど私は目覚めない。


「ずっとここに居座るのも申し訳ないし、陽鶴ちゃんが寝ている間に、家に帰ったりあーくんにもう一度会いに行ったりしてみようとしたんだ。
もしかしたら、見えるようになってるかもしれない、なんて期待があったし。
でも、それが出来なかったの。
陽鶴ちゃんから離れようとこの部屋を出たら、そこから先に進めなくなっちゃうの」

「進めない?」

「うん。体が引っ張られて、一歩も踏み出せなくなっちゃうのね。
どういうわけだか、あたし、陽鶴ちゃんから離れられないみたいなんだ」


彼女はひょいと肩を竦めて言った。


「は。あ」

「でね、仕方ないから、ここにいたのね。
あ! 
あたしね、物を触ったりできないから部屋の物は何も触ってないです。
もちろん、引き出しの中とかも見れないし、ていうか見ないし。そこは大丈夫、安心して」

「いや、まあ、うん。それは、いいけど」

「で、陽鶴ちゃんが寝ている間に一人でずっと考えてたんだけど、これってさ、あたしが陽鶴ちゃんに憑りついたってやつなんじゃないかなあ、って」


かわいらしく小首を傾げて言う彼女に、「おう?」と奇妙な声が出た。

なんか今、おどろおどろしい単語が出ましたけど。
少しだけ動揺した私に気づかずに、美月ちゃんは続ける。


「だって、そうじゃない? あたしは今『幽霊』ってやつで、そのあたしが陽鶴ちゃんから離れられなくなってるわけじゃない。憑りついたってやつだよ、きっと」

「はあ」


腕組みをして、うんうん、と一人で納得した様子で頷く美月ちゃん。
それから、彼女は居住まいを正すように、その場に正座をした。
といっても、やはりフローリングから僅かに浮いているのだけれど。