「あの時の、あたしを見ないあーくんを見て、ああ、あたし本当に死んじゃってるんだって悟った。そしたらさ、色んなこと思いだした。トラックが……あたしにぶつかったことも。救急車で運ばれて、でもそのまま死んじゃったことも」

「美月ちゃ……」

「酷いよねえ。あたし、まだまだこれからなのにさ。峰不二子みたいな超セクシーな美女にだって、漫画家にだって、何にだってなれたのにさ。あっさり死んじゃうんだもん。ほんと、酷い」


頬をゆっくりと掻いて、彼女は力なく言う。

私は何も言えなかった。

何を、言えるだろう。
私たちは同じところにいて、同じようにトラックにぶつかった。
私は少しの傷で済んで、美月ちゃんは命を落とした。

私たちの生死の境目なんて、きっと大きな差はない。
運、と呼べる程度のものだっただろう。

そんな私が、彼女にどんな声を掛ければいいと言うのだろう。
布団の端っこをぎゅっと握りしめていると、彼女がぱっと明るい顔つきになった。


「でもね、そんな時に陽鶴ちゃんに気づいて、嬉しかった! あたしのこと見えてる人がいる! って」

「……ああ、うん」

「あのとき、すっごく嬉しかった。真っ暗な世界で、唯一の光……そんな感じだった!」


美月ちゃんは嬉しそうに笑って続けた。


「でさ、陽鶴ちゃん、気を失ったじゃない? で、お姉さんたちが慌てて式場から連れ出してたんだよね。あたし、陽鶴ちゃんと話したいと思ってついてきちゃったの」


自分の姿を見ることのできた私となら、会話もできるはず。
そう考えた彼女は、ワタルさんの運転する車に同乗して来たのだそうだ。