「きゃあ! 陽鶴ちゃん、急にどうしたの⁉」

「い、いや。何でもない」


じんじんする頬に手を添えて、痛みで少し涙が滲んだ目で、私は美月ちゃんを見た。


「美月ちゃん、ええと、ごめん。私、この状況に全然ついていけてない。
ええと、どういうことになってるのか、確認してもいいかな」


彼女はコクコクと頷いた。




――私の目の前にいるのはやはり、美月ちゃんの幽霊であるらしい。

彼女が言うには、気付いたら自身の葬儀の、弔問客のど真ん中に立っていたのだそうだ。


「びっくりした。『樋村美月 葬儀』なんて看板は出てるし、みんながあたしの名前を呼んで泣いてるし。
それに、誰に話しかけても誰も気付かなくて、何も触れないの。
触ろうとしたらスイってすり抜けちゃうんだ。タチの悪い夢を見てるんだと思った」


悪い夢だ。起きなきゃ。
そう思うのに、夢は一向に覚めない。

焦った美月ちゃんは、泣いて叫んで、周囲の人みんなに声をかけた。
だけど、誰も気付かない。美月ちゃんを見ない。


「そんなとき、あーくんを見つけたの。あーくんなら絶対あたしのこと気付いてくれるって思ったんだ」


美月ちゃんの顔が少しだけ明るくなって、そしてすぐに曇った。


「けど、陽鶴ちゃんも見てたとおり、無理だった……。へへ」


美月ちゃんは視線を床に向けて、頼りなく声を漏らした。


確かに、園田くんは全然彼女に気付いていなかった。
あんなに憔悴して、死んでも一緒にいたい、なんて言っていたのだ。
姿を見ることができていたら、どれだけ救いになっただろう。