「大丈夫ですか。これを被って」


斎場の人らしき人があわただしくやって来て、園田くんに紙袋をかぶせる。


「ゆっくり呼吸して。大丈夫。ゆっくり。楽になるから」


痙攣するかのように体を震わせていた園田くんの体が、次第に落ち着く。


「だいじょうぶ、です……」


それからしばらくして、園田くんの弱々しい声がした。


「杏里くん、あなたも事故のあとでまだ無理をしちゃいけないのよ。お願いだから、控室で休んでてちょうだい」


美月ちゃんのお母さんが泣きはらした目で園田くんに言う。

私が姉たちの力を借りないと動けないように、園田くんもきっと、体がきついのに違いない。
なのに彼はずっとここにいたのだろうか。


「大丈夫です、俺……」


袋の下で、彼が小さな声で言う。


「美月の傍に、いたいんです……。死んでも」


それは、今まで聞いたことのない園田くんの声だった。
頼りない、小さな子供のような声に聞こえた。
小さなその声で、園田くんは繰り返す。

死んでも。
死んでも美月の傍にいたいんです。

今にも泣き出しそうなその声に、誰も何も言えなかった。

だって彼が誰よりも美月ちゃんを大事にしていたかを、知っていたから。
彼が本気でそう願っていると、わかっていたから。


「……馬鹿なこと、言わないで。杏里くんが死んだら一番悲しむのは、美月よ」


涙声で、美月ちゃんのお母さんが言う。


「だから、そんなこと言わないで。美月の為にも、杏里くんはがんばらなきゃ」

「すみま、せん……。俺……」




「あーくん!」





そんな中の叫び声を聞いた私は、耳を疑った。


え。
まさか。
そんなこと、あるわけない。

だけど。


のろりと振り返り、斎場の入り口を見る。
人ごみの中に凛と立つその子を捉えた瞬間、私の肌が総毛だった。
足先からすうっと血の気が引いていく。

なんで。
まさか。
でも。


私が見違える訳がない。
だけど、その子は祭壇の上で笑ってる。柩の中で眠っている。