あの日のきみを今も憶えている

「美月、ちゃ……」


名前を呼ぶ声が潤む。
喉の奥から大きな塊のようなものがこみ上げてきて、私の呼吸を止める。

だって、まだ、実感がわかない。
本当に、美月ちゃんは死んじゃったの?

「これは冗談でーす!」なんて言って、おどけて出て来たっていいんだよ?
美月ちゃんなら、みんな許してくれるよ。
笑ってくれるよ。
だから、ほら、出て来てよ。


「ヒィ。彼女に、お別れの挨拶をしなさい」


姉に促されて、柩に向かう。そっと、覗き込んだ。
狭そうな桐の箱の中で、美月ちゃんはただ眠っていた。

擦り傷一つない。
私の頬の方が余程酷い状態だと思う。
なのに、どうして美月ちゃんがこんな所に入っているの?

まるで、白雪姫だ。
そうじゃなければ、王子様のキスを待っている眠り姫だ。
きっと愛する人のキスさえあれば、彼女はするんと起き上って、あの素敵な笑顔を浮かべてくれるんだ。

ねえ、美月姫。
王子様はどこ?
私、呼んできてあげるよ。


清らかな寝顔に語りかける。
王子様はどこ?
ねえ、美月ちゃん……。


その時、背後で「大丈夫?」と声がした。
のろのろと振り返ると、遺族席の端っこでうずくまる園田くんがいた。



――あの事故で死んだのは、美月ちゃんだけだった。
私も、園田くんも、どうしてだか死ななかった。


私と同じように擦り傷だらけの園田くんは、顔色を真っ白にしていた。
過呼吸を起こしたらしく、呼吸を荒げている。