「ヒィ!」


呼ばれた名前に、時が止まった。
息を忘れる。

彼女は、今、なんて?


「ふわ! あ! あたしったら噛んだ! ひ、陽鶴先生ですよね!」


顔を真っ赤にした彼女は、「変な呼び方してすみません!」と私に深く頭を下げた。


「あ、なた……は?」

「あの、あたし、小池美衣と言います! 美術部です! 先生のこの絵を体験入学の時に見て、一目ぼれしてこの学校に入りました!」


天真爛漫な笑顔。
記憶の中の彼女と姿かたちは全く違う。

だけど、私は知っている。
彼女がどう笑ったか、喋ったか。
私を、どう呼んだか。

まさか。
でも。


「大好きなんです! だからずっと、先生に会いたくって!」


彼女は背中にした絵を振り返り、ため息をついた。


「この女の子を見ると、すっごく懐かしくなるんです。今にも起きそうで、笑ってくれそうで、その笑顔が見たくって。彼女は先生の絵の中で永遠に生きてるんだって、当たり前なんだけど、感動しちゃうんです」

「そ、う……」


「この絵を描いてくれて、ありがとうございます! 会って、お礼を言いたかった。会いたかったんです!」


私に顔を戻した彼女が、笑った。
息を飲む。