「ヒィも、覚えていてね。あたしがいたことを。あたしと過ごした日のことを」

「忘れない。ずっとずっと、覚えてる」


絶対、忘れるものか。
美月ちゃんがそんな私を見てそっと笑う。


「……ねえ、ヒィ。いつか、あーくんに伝えて」

「……え?」

「あーくんが自分の幸せを迷った時に、伝えて。ヒィの口から」


美月ちゃんは、ぐっと息を吸って、それから言った。


「その人の手を取って、幸せにして、って」

「ミ、ィ」

「これは、お願いじゃないよ。約束」


ふふ、と笑った美月ちゃんが、覗き込む私の向こうに視線をやって、「あ」と声を上げた。


「ヒィ。わかったよ。あれだね、夏の大三角形。三つの星、あたし、もう見逃さないよ」

「……ミィ」

「ふふ、綺麗だね」


美月ちゃんが、目を閉じた。手が力を失い、ゆっくりと落ちる。


「いやだ、ミィ!」


名前を叫んだその瞬間。
美月ちゃんの体がはじけるようにして、キラキラとした光に変わった。
体の線は形を失い、眩しいくらいの光の粒に変わる。
星屑のような、光る花びらのようなそれは、空へと昇って行く。


「ミィ!」

「美月⁉」

「何だこれ!」


私だけでなく。
それは二人にも見えたらしい。

美月ちゃんの、最後の姿。
光は真っ直ぐに空へと昇って行く。

園田くんが空を仰ぎ、「美月! 美月!」と叫ぶ。


「ありがとう! 美月、俺のそばにいてくれてありがとう!」


園田くんの声が光を追う。



『またね。また、会おうね』



遠くから、美月ちゃんの声を聞いた気がした。





――私たちの夏は、一人の大切な女の子を喪って、終わった。