「あーくん。
あたし、あーくんといられて、幸せだった。
毎日キラキラしてて、楽しかった。

いっぱい好きをくれてありがとう。
あたしの好きを、全部受け止めてくれてありがとう」


「美月、美月!」


「大好きだよ、これからもずっと。あたしの想い、全部あーくんにあげる」

「俺だって好きだ、大好きだ。俺の気持ち、全部持って行け!」


美月ちゃんの肩に顔を埋めて園田くんが叫ぶ。
ぐっと息を詰まらせた美月ちゃんが、ゆっくりと息を吐く。


「……そんなのいらない。あたしは、今までもらった分だけでいい。これからのは、取っておいて」

「なんでだよ!」

「だって、この先誰も想わない人生なんて、寂しすぎるもの。
あーくんに、寂しい道を歩んでほしくない。だから、あーくんにも、お願い」


美月ちゃんが、抱きしめる指先に力を込めた。
ぎゅ、っと園田くんに縋りつく。


「いつか、誰かを好きになって。
私にしてくれたように、好きで満たしてあげて。好きで満たされて」


美月ちゃんは声を詰まらせながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「あたしは、あーくんの笑顔が好き。だから、人を好きになって、また笑って。これがあーくんへの、お願い」

「美月、俺、美月じゃないと、嫌だ……っ!」


美月ちゃんの頬に、涙が流れる。声を出そうとして、躊躇う。
「あたしも」そう言いかけて、だけど彼女はぐっと飲み込んだ。ふるふると、首を横に振る。


「……大丈夫、だよ。あーくんには、長い未来がある。
きっといつか、誰かほかの人を想える。
あたしは、あたしとの思い出は、その時あーくんの『躊躇い』になりたくないんだ。
あーくんの幸せの『障害』にはなりたくない」


ぽろぽろと零れる涙をそのままに、美月ちゃんは続ける。


「だから、悩んだ時は思いだして。誰かを好きになるのは、あたしの願いでもあるんだって」

「美月……!」

「ただ、できるなら……あたしとの思い出込みで、あーくんを愛してくれる人であってほしい、な……」


無かったことにされるのは、哀しい。
そう言う美月ちゃんをかき抱いて、園田くんが叫ぶ。


「無かったことにするわけないだろ! 心のど真ん中に、美月がいる!」

「えへへ……うん……」


美月ちゃんは、背中に回していた手を解いて、「顔見せて」と言った。
そろそろと、園田くんと向かい合う。

まるで、親に置いていかれる子供のように、目の周りを真っ赤にして、唇をぎゅっと噛みしめた園田くん。
固く引き結んだそこはふるふると震えていた。
ぐっと引き結ばれた唇をそっと撫でて、美月ちゃんは泣きながら笑った。