「分かって、るよ」


美月ちゃんが、背中に回した手にぎゅっと力を入れる。


「分かってる。そんなの、誰よりも。だって、あたしも、あーくんのこと、誰よりも好きだもん」

「美月……」

「だから、あーくんも、分かって。あたしが、あーくんの笑顔が一番好きなこと。あたしはその笑顔を、一秒でも長く見ていたかったんだ」


ぎゅっと重なった体。園田くんの鼓動が感じられる。
今にも壊れてしまいそうなくらい、早い。


「美月、俺、嫌だ。ここにいてくれ。俺のそばにいてくれよ!」

「いられないよ。ヒィに、一生あたしを背負えって言うの? 無理でしょ」

「だって……、でも、いやだ、美月」


美月ちゃんが、手を緩める。優しく、園田くんの背中を撫でる。


「今日、すごく楽しかったね。いっぱい笑った。あたし、あーくんやヒィたちと過ごした毎日がとても楽しかったよ。ピカピカ輝いて……眩しいくらい、楽しかった」

「美月、嫌だ。そんな、別れの言葉みたいなこと、言うな」

「別れの言葉、だよ」


ひゅ、と園田くんが息を飲む。
強かった腕の力が、一瞬抜けた。


「あたし、今、心残りは何もないよ。精一杯、できることをした」


美月ちゃんは、園田くんの向こうで立ち尽くしている穂積くんを見て、笑いかけた。


「穂積くん、いっぱい笑わせてくれてありがとう。あたしのために、たくさんありがとう」


穂積くんが、首を横に振る。


「俺のほうが、ありがとうだ! たくさん、美月ちゃんに大切なものもらった!」

「お願いが、二個あるの。一個目は、あたしのこと、ちょっとだけでいいから、覚え」

「忘れるわけ、ないだろ!」


美月ちゃんが言い終わる前に、穂積くんが叫ぶ。美月ちゃんはほろりと笑った。


「えへへ、嬉しい。二個目は、これからもずっと、あーくんとヒィと仲良くして。あたし、三人を眺めるの、好きなんだ」

「それくらい……、言われなくてもだよ」

穂積くんの声が濡れる。彼は、乱暴に手の甲で顔を拭った。


「四人で過ごすの、すげえ楽しかったんだぞ、俺。一緒に、いるさ。ずっと」

「うん、よろしくね」


美月ちゃんは、園田くんの背中を撫でる。