「ミィ、私、でも」


なんて言えばいいの。
園田くんのことは任せてなんて、口が裂けても言えない。
そんな言葉を美月ちゃんに言うなんて、無理だ。

私が彼女の変わりに太陽の雲を拭うことなんて、できるものか。

私を見た美月ちゃんが、ふっと視線を緩めた。


「大丈夫。ヒィは特別なことしなくっていい。今まで通りでいいんだよ」

「でも、私なんか」

「ヒィじゃなきゃ、ダメなんだよ」


美月ちゃんはふわりとスカートの裾を揺らして、芝生の上に座った。
私を見上げる。


「嫌なお願いしてるよね。
ヒィの気持ちを知っていて、こんなこと言うんだもん。
でも、あたし、ヒィなら聞いてくれるって、知ってる。ねえ、座って」


美月ちゃんに促されて、のろのろと座る。
並んで、遊ぶ二人に視線を投げた。


「こんな、特別な状況を知ってるのはあたしたち四人だけ。そして、あたしはいなくなってしまう。そんな時、あーくんを支えられるのは、残りの二人しかいない」

「……うん」

「だから、お願い。ヒィにとって、辛いことが続くかもしれない。だけど、あーくんの傍で、支えてあげて」

「ミィは……それで、いいの?」


掠れる声で訊けば、美月ちゃんが俯いた。

美月ちゃんは、私の気持ちを知っているのだ。
私が園田くんを支えるなんて状況、絶対嫌だと思う。


「ミィが嫌がるのわかるから、私は一生、自分の気持ちを口にしない。誓うよ。だけど」

「そんな誓い、いらないよ」


美月ちゃんが、切り捨てるように言う。
普段にはない厳しさに口をつぐむと、美月ちゃんが「違うんだよ」と声を和らげた。


「そこまで、しないでほしいってこと。ヒィには、ヒィのやりたいことをやってほしいんだ」

「でも、ミィ」

「あたしを理由に、自分の想いを隠さなくっていい。それも、ヒィへのお願いかな」


美月ちゃんを見ると、彼女は困ったように眉尻を下げた。


「嫌って気持ちがないかっていうと、あるよ。素直に言えば、お腹の中真っ黒になっちゃうくらい。
だけど、それってエゴだもの。エゴで、大好きなヒィを縛りたくない。エゴで、自分を汚したくない。
だから、もし、そういう未来があるとしても、あたしは受け入れたいと思う」

「そういうこと、言わないで。やだよ、私」

「嫌でも、聞いて。
あたし、あーくんの隣にいるのが知らない女の人よりヒィの方がいいと思うのも、本心なんだよ」

「ミィ」

何か言おうと口を開こうとすると、「くっそー!」と園田くんの声がした。


「また負けた! こいつ、ズルいんだ。ゴール前で俺の服引っ張りやがった」

「その前に、俺の進路を邪魔したのは杏里だろ!」


ぎゃいぎゃいと口げんかをする二人がやって来たので、私は口をつぐんだ。


「ふふ、子供みたい」


美月ちゃんはそんな姿を愛おしそうに見て、笑った。