「――で、どうなってるわけ?」


私の嘘は、万人を騙せるものではなかった。

食堂で別れた後、美術部の部室まで私を追いかけてきた穂積くんは、
誰もいない渡り廊下まで私を連れ出して、厳しい声で言った。


「美月ちゃんとあの後ちゃんと話したんだよね? どういう話になれば、何もなかったようにキャンプなんてことになるの」

「どうしようもないから、キャンプなんだよ」


昨日の今日で、穂積くんと二人で顔を突き合わせるのは酷く気まずい。
だけど、私が美月ちゃんとのことをちゃんと相談できるのは、穂積くんしかいない。


「どういうこと?」


穂積くんが形のいい眉をきゅっと寄せた。


「心残りなく逝けるように、笑って過ごす三日間を下さい。そう言われた私に、何ができる?」


穂積くんを見上げて訊く。
綺麗な顔が、はっと息を呑む。
それから彼は、「そうか、そういうことか」と呟いた。


「美月ちゃんも、分かってたんだな……。自分に残された時間」

「うん。そして、いなくなるギリギリまで、園田くんには黙っていてって。
引き留められたら……、いけないからって」

「そっか、そこまで話した上での、キャンプか……」


穂積くんはそう言って、口を噤んだ。
遠くに、どこかの運動部の掛け声と、ブラスバンド部のメロディがする。
美月ちゃんのいない、トランペットのパートが響く。


「そっか。いや、分かってたことだけど、やっぱ、ちょっと気持ちのやり場に困るね」


果たして、穂積くんが言う。
いつもの明るい声が、少しだけ濡れている。

穂積くんは窓の向こうに視線をやって、

「ヒィちゃん、美月ちゃんのお願いを聞くって言ったんだ」

と言った。
私はこくんと頷く。


「もう、それしかできないの」


足元で眠る美月ちゃんを見る。
目を凝らさなければ、寝息を立てているのかもわからないくらい深い眠りに落ちている美月ちゃんを。
彼女を起こすことすらできない私には、できることは限られている。


「私ができることはもう、ないんだよ」

「そう、だな。それしか、してあげられないんだな……」


ず、と穂積くんが鼻を啜った。