「私、どれだけでも体を貸す。なんでもする。だから、これからも一緒に居たい」

「……ヒィ、その気持ちは嬉しい。とっても、嬉しい。でも、あたしの気持ちも分かって」


美月ちゃんが私に手を伸ばす。
細くて白い手は、私の頬をすり抜けた。


「……ヒィにしか見えない。声も届かない。触れられない。大好きな人が倒れても、何もできない。『好き』ってたった二文字も、自分の口じゃ伝えられない。そんなのもう、嫌なの」

「ミ、」


手がするりと離れる。
その手をぎゅっと握りしめて、美月ちゃんは視線を落とした。


「あたし、告白するよ。
だんだん、自分が嫌な子になっていってたの。
あーくんと笑い合えて、なんてことない会話ができるヒィが、羨ましいって思ってた。
ううん、羨ましいなんてものじゃない。
……妬ましいって、思うんだ」


握りしめた手が震えている。美月ちゃんはこぶしを見つめたまま続けた。


「……馬鹿だよね。
ヒィはこんなにもあたしのこと考えてくれる。何でもしてくれる。
なのにあたしは、ヒィのこと、ズルいなとか、いいなとか、考えちゃうんだよ。
あたしにはもう何もないのに、ヒィは何でも持っている。


家族も、友達も、体も、命も、……未来も。

あの、たった一瞬で、あたしは全部を失ったのに。
ヒィは、持ってる。


それが、眩しいくらい羨ましくて、妬ましいんだ」

「ミィ」

「ほんとに、笑えるくらい馬鹿でしょ。でも、どうしようもないの」


ぽたりと、美月ちゃんのこぶしに涙の粒が落ちた。


「さっきだって、そう。ヒィがあーくんのこと好きだって分かった時、あたしがまっさきに何を考えたか分かる?
すごくどす黒い気持ち。
あんな汚い感情が自分の中にあるなんて、思いもしなかった」

「そんなの、仕方ないことだよ! 私みたいな存在を知ったら誰だって、嫌になる」


美月ちゃんは首を横に振る。


「そのあとヒィの気持ちを知って、あたし、なんて恥ずかしいんだろうって、思ったんだ。
こんなに心が綺麗な子にここまで想われてるのに、なのにあたしは、何を考えてるんだろうって。最低だよ」

「ミィ、そんなことない。私は」

「ううん。あたしはこれ以上、自分のことを嫌いになりたくない。ヒィに好かれている自分を堂々と好きでいたいの。だから、わかって」


美月ちゃんは、絞り出すようにして叫んだ。


「あたしは、自分が本当に嫌な女になる前に、この世から去りたいの……!」


涙の粒は美月ちゃんの手に幾つも降る。
それはつう、と流れ、手から零れ落ちる。

だけどそれは、フローリングに落ちる前に、消えた。