「私は、二人がまた笑い合えているところを見たかった。一緒にいるところを見たかった……!」


二人の間にはいつも私を幸福にさせる空気があった。

クリムトの接吻する恋人たちのように濃密で、
シャガールのヴァンスの恋人たちのように清らかで。

そして、どんな絵画の恋人たちよりも眩しい。

そんな二人を、私は本当に、ずっと見ていたかったの。
二人の前では、私はいつでも観覧者でよかったんだ。
馬鹿みたいに、子供みたいに泣きながら言う。


「だから、私は我慢なんてしてなかった。私は自分の気持ちなん、て……」


ふっと、口を閉じる。
美月ちゃんが、私の口元に手をあてた。
私と見つめあった美月ちゃんは、ぎこちなく笑う。


「きっと、そうなんだろうね。ヒィは、本当にそう思ってたんだ。すごく、わかるよ」

「ミィ! 分かってくれた?」

「でも、それは、今のヒィの感情じゃ、ないってことも、分かった」

「え……?」

「想いは、成長する。ヒィの想いも、おっきく育ってるんだよ」

「どゆ、こと?」


私に言い聞かせるように、「あのね」と美月ちゃんは言った。


「見てるだけでいい。見守るだけでいい。だけど、それだけじゃ満足できなくなるんだよ。好きが増えれば増えるほど」


言いながら、美月ちゃんが自分の胸を押さえてみせる。


「この辺りが痛くなるくらい、『したい』が溢れてくるんだ。話したい、笑いかけてもらいたい、触れたい、触れられたい、傍にいたい。そう、思っちゃうんだよ」


それから美月ちゃんは、私の頬に触れようとする。それはするりと、通り抜けた。
触れられない手を引いて、美月ちゃんが哀しく笑う。


「好きだって想いは、相手を求める衝動なんだよ。それは、もう抗うことのできない本能みたいなもの。だから、見てるだけで満足なんて、できるわけないんだ」

「そんなことない! 私は本当に……」

「……さっきのヒィの言葉、全部過去形だった」


ひゅ、と息を飲んだ。