「……急に走り出すんだもん。びっくりした」


背中で優しい声がした。


「謝るのはあたしの方だね。ごめんね。本当は、一人になりたかったよね」


美月ちゃんの顔が見られない。ぎゅっと拳を作った。


「そんなのは、いいの。ごめん。ミィ、ごめん。私」

「あともう一つ。気付いてあげられなくて、ごめん」


美月ちゃんが、ゆっくりと言う。


「あたし、ヒィにひどいお願いを、してたんだね。たくさん、我慢させたよね。ひどいよね」

「そんなことない!」


振り返って、美月ちゃんに叫ぶ。


「そんなことない! 私は、我慢なんてしてない」

「だって、嫌だったでしょ。あたしとあーくんを、ずっと傍で見なくちゃいけなかった」


美月ちゃんが私の前まで来る。私の頬に触れるか触れないかのところで手を止める。
私を少しだけ見下ろすかたちになった美月ちゃんの目に、涙が溢れる。


「あたしのために、ヒィがたくさん頑張ってくれたこと、知ってる。
何でもしてくれたこと、知ってる。
あたしは、それがすごく嬉しかった。
だけど、ヒィの笑顔の陰に、たくさんの我慢があったなんて、知らなかった。
きつかったでしょ……?」


ころりと、涙が頬を転がり落ちた。