「この絵を見たら、よく分かる。ヒィはこんなにも、あーくんのこと好きだったんだね」


頭のてっぺんから、爪先まで。
説明しようのない感情が電流のようにめぐる。


中学校の時から、ずっと、ずっと。



私は園田くんが好きだった。



心を奪われたのは、走る姿だった。
ゴールに向かって駆けだす姿は誰よりも綺麗で、私はどんなときでも目を逸らすことは出来なかった。
私はずっと、園田くんを目で追っていた。

彼のどんな姿でも網膜に焼き付けておいて、心の中のキャンバスに何枚も描きとった。

彼に、誰もが認める可愛い彼女ができても、その想いは捨てられなかった。
高校に入ってからも追い続けた。

ああ、自分の気持ちを否定はしないよ。
だって、もう、言い訳のしようもない。


「……っ!」


「あ、おい福原! どこ行くんだ!」


堪らずに、私は部室を飛び出した。

階段を駆け下り、渡り廊下を走り、グラウンドの脇を抜けてそのまま中庭へ向かう。
大きな銀杏の木の下で、私はようやく立ち止まった。
幹に手を付き、はあはあと息をつく。


「……ごめん、ミィ」


絞り出すように言った。
私と彼女は繋がっている。
だから、美月ちゃんは私の傍に、いる。


でも、私は逃げ出したかった。
美月ちゃんの前からじゃない。
隠しようもないくらいの私の想いが乗った、あの絵の前から。

見られたくなかった。
私の想いは、永遠に知られなくてよかったんだ。