その日の夕方、私は園田くんと穂積くんの三人で歩いて帰っていた
。美月ちゃんは一時間ほど前からすうすうと寝息を立てていて、起きる気配はない。

それは、いつも通りと言えばいつも通りで、だけど私にはどこか、ぎこちない放課後だった。
それも、そうだ。
だって私は、穂積くんに告白されたわけで。
どうしたら、通常運転でいられるって言うの


「ぷは。あー。あっちぃな。ヒィ、これいるか?」


一リットルのペットボトルのスポーツ飲料を喉を鳴らして飲んでいた園田くんが、私にずいと差し出す。
汗をかいた大きな入れ物を、私は「いや、いい」と押し返した。


「バッグの中にお茶あるし、大丈夫」

「そうか? スポーツ飲料の方がお茶より吸収率いいんだぞ?」

「緊急に保水しないといけないくらい脱水してないから、平気」

「ふうん?」


ならいいけど、と園田くんはボトルを引っ込めた。
そんな園田くんに、小さくため息をつく。
いや、この人は本当に、いつでも通常運転だわ。
何よりですけどね、ええ。


「ヒィちゃん、じゃあこれ食べる? たしか、好きだったでしょ」


穂積くんがひょいと差し出したのは、私が最近気に入っているプレッツェルの箱だった。
シュガーバターの風味のそれは美味しい。
だが、素直に食べられる心境ではない。


「えっと、大丈夫。いらない」

「そお?」


にっこりと笑いかけてくる穂積くんの顔を見ると、心拍数が私の許可もなく勝手に上がって行く。
だって、どうしても思いだしてしまう。
穂積くんの告白を。


『ヒィちゃんが! 好きなんだ!』


あんなに力強くはっきりと告白されたことなんて、ない。

穂積くんは、私のどこがいいんだろう。
取り立てていいところがないことくらい、自分が一番よく知ってるのに。

意識しなくていいと穂積くんは言ったけれど、そんなの無理だ。
意識しないでいい方法があれば、教えてほしい。

それに。
私は、穂積くんの想いにはきっと応えられない。だって……。


はあ、とため息をつくと、頭の上にでっかい手のひらが乗っかった。
ぐりぐりっと乱暴に頭を掻き回す。


「うひょ⁉ な、なに!」

「なんだよ、ヒィ。さっきから景気悪い顔してんな?」


園田くんが、私の顔を覗き込んだ。


「疲れてんのか?」

「は? い、いや別に疲れてなんかないけど! 景気もすっごくいいし、なんなら一部上場だし!」


少しだけ汗をかいた肌に、薄い茶色の瞳。
睫毛の一本一本まで確認できそうな距離に現れた顔に目をぱちくりさせてしまう。
遠くに行っていた意識が強制的に戻される。

そして、本当に、この人距離感が分かってない。