姉の彼氏が好きだと言ったのは、よくなかったかもしれない。

私はペロッと嘘をつく癖に、その先のことを考えないところがあるのだ。
うん、それは昔からの悪い癖。


と言うのも。
私が叶わぬ恋に身を焦がしていると知った明日香から、夏休みの予定を幾つか埋められそうになったのだ。


「合コンじゃないから! 建ちゃん(明日香の彼氏)の友達と四人で遊ぼうってだけだから! しかも、千鶴さんの彼氏さんに似た感じ!」

「ご、ごめ……。そういうの、まだいいっていうか、うん」


おずおずと謝る私は、明日香の友情に応えられないクズだ。
ワタルさん似といわれても、かけらの興味もないわけで。

明日香は眉毛をきゅっと寄せて「でも、他の人を見ることも大事だよ?」と言う。


「うん。あの、見れるようになったらまた言うから、ね」


申し訳なさそうに言う私に、少しだけ不満そうな顔をした明日香だったけれど、すぐに「気にしないで」と笑う。
その笑顔に、胸が少しだけ痛んだ。

その日の帰りは、いつもより足取りが重かった。


「あんな嘘つくんじゃなかったよなあ」


ふう、とため息をつきながらつぶやく。
やっぱり、「好き」という気持ちを偽ったのは気分が良くない。

だけど、本心を言うつもりはないわけで。


道端に転がっていた石をこつんと蹴った私は、前方に視線をやって、ふうんと鼻を鳴らした。


「……最近、よく会う」


数日前と同じように、仲睦まじく帰宅している園田くんと美月ちゃんの姿があった。

今日は仲良くジュースを飲んでいるらしい。
ペットボトルが二人の間を往復しているのが見えた。

夕日に照らされたその姿は、「ザ・青春」ていう感じで微笑ましい。


「何か、絵になりそう」


きっととても、かわいらしい絵になる。
タイトルをつけるなら、『初夏の睦み』とか?
いやちょっと重たいかな。

クスリと笑って、私は二人を追い越すべく足を運んだ。