「ねえ。今度、デートして。俺、ヒィちゃんのこともっと知りたい」

「な、な……。デエトとか!」


声が裏返った。
そんな風にダイレクトに誘われたこと、私の人生において、ない。
前田君だって、「今度の休み、ちょっとでかけよっか」みたいに遠回しに言ってきたのだ。


「あはは。ああ、かわい」


私の頭をくしゃっと撫でて、穂積くんは「じゃあ行くよ」と言った。


「練習中、たまに俺の方見てよね。その分頑張るから」

「あ、あう」

「あとさ」

「は、はい?」

穂積くんは、言葉を探すように視線をさまよわせて、それから「俺を支えにしてほしい」と言った。


「え? 支え?」

「そう。辛くなったときの、クッションでいたい」


どういう意味?
辛いって、何?
意味がつかめないでいると、穂積くんは「今はいいんだ」と言う。


「今はいい。ただ、その時が来たら、俺を一番に思い出して? 約束だよ」


子供を諭すように、優しく穂積くんが言う。


「? よくわかんないけど、覚えておく、ね」


さっきのこっぱずかしい言葉の羅列よりはよほどいい。私はこっくりと頷いた。


「うん。それでいいよ。じゃあ、また帰りに!」


穂積くんはそう爽やかに言って、駆けだして行ってしまった。


「待っ……」


待って、と言おうとして止める。
だって本当に待たれたら、なんて言うのだ。
こんな、初めて尽くしの状況、無理だ。
そろそろ心臓が止まる。

小さくなっていく背中を見ていると、「ぐふふ」と笑い声がした。


「……いつから起きてたの、ミィ」

「好きなんだ! ていう素敵な声で目が覚めた」

「うわあ、すごいタイミングぅ」


まだ熱を帯びている顔で下を見れば、膝を抱えて座った美月ちゃんがキラキラした顔で私を見上げていた。


「あたし、人の告白シーン見たの初めてだよ」

「そう。それは、よかったね……」

「すっごい素敵な告白だった。キュンキュンしたあ。あんな素敵な告白が初めてって、すごいよヒィ」

「あー、うん。ええと、それはどうも」


なんだこれ、恥ずかしい。
頭をガシガシと掻きながら言うと、美月ちゃんが笑った。


「ほんとだ、すごく可愛い。穂積くん、いい趣味してる」

「ちょ、からかわないで!」

「で、告白の返事は?」


立ち上がった美月ちゃんが私の顔を覗き込む。私は、ぐっと言葉に詰まった。


「えと、その、私……」

「ヒィは意識してなかったみたいだし、これから考えるってところかな」


うんうん、と納得したように言って、美月ちゃんは笑った。


「でも、上手く行けばいいなってあたしは思っちゃう! だってあたし、ヒィも穂積くんも大好きだもん。大好きな人が大好きな人と幸せになってくれたら、すごく嬉しい」

「……うん、そうだね」


私は、少しだけ笑った。