「わ、私めちゃくちゃ美術バカで! その、全然面白くないと思うんだけど! もうほんと、全然!」


慌てて言う。
私は穂積君に告白されるような、そんな素敵女子ではない。
彼はきっと、何か壮大な勘違いをしているのだ。


「興味あるのは絵画ばっかりなんだ。スマホの待ち受けだってドガの『青い踊り子たち』で。
それってどうなのって明日香に笑われたくらいで!」


なのに、穂積くんはクスクスと笑いながら「知ってるよ?」と言った。


「この間、絵画が大好きだって言ってたじゃない。『ドガ』の『エトワール」。俺、覚えたよ」

「あ、あ、うん。そうなんだけど」

「絵が好きなら、美術館とか好きだったりするの?」

「す、すごく好きだけど、でも好きな絵の前だと平気で一時間くらい眺めちゃうし、絵の話いっぱいするし、ていうかそれしか話さないかもしれないし。そういうのって呆れられちゃうみたいだし」


私、馬鹿だ。
こんな言わなくてもいいことまで言っちゃって。

だけど、前田くんのあの怒った顔がふと思いだされて、言ってしまう。
穂積くんが「そんなの、全然いいよ」と言った。


「付き合うよ。話も、すっごく聞きたい。好きな絵を眺めているヒィちゃんを、見ていたい。何時間でも」

「……!」


何、心臓ドキドキしてるんだ、私。
言葉失っちゃってるし。


「あ! あの、えと! 私その」

「いや、返事とか、まだいいんだ。今はそういうこと考えられないだろうなってことは俺も分かってる」


私の言葉を制するように穂積くんは手を振った。


「ただ、言っときたくって。自分の中にため込んでおくの、そろそろ限界だったんだ」

「ふ、あ、は、はい」


うあ、声が裏返る。
私、動揺しすぎだ。

でもだって、こんなの本当に経験がないんだ。
なさすぎて、どうしていいのかわかんない。


「これまで通りでいいよ。俺のことで考え込まなくっていい。
ああ、でも、できることなら、俺はヒィちゃんの支えになりたいと思ってる。
何かあったら、真っ先に俺に相談しようと思ってもらえるようになりたい。

だから、そういう意味では考えておいてほしいかな。ね?」


ね? と言われましても。

しかし、今の私に何か言う余裕はない。
ていうか、こういう時ってなんて言うんだ。
全然分かんない。
酸欠の金魚みたいにパクパクと口を開け閉めしていると、穂積くんが頬を赤くしたままぷっと吹き出した。


「やばい、そんな顔されたらすげえ可愛い」

「ふ、ふお!」

「俺に、めちゃくちゃ女の子の表情してくれてるの、たまんないわ」

「な、なに言って……!」


喉の奥まで熱がこみあげてきて、息苦しい。