「あーくんのところ、連れて行って」

「もう面会時間過ぎてて、ダメっていわれ……あ。いや、行こう」


美月ちゃんだけなら、病室に入れる。
私は病室の外にいれば、万が一見咎められても、怒られることはないだろう。
腕時計を見て、ワタルさんとの約束の時間までまだ少しあることを確認して、私は病室に向かった。

園田くんの病室は個室だ。


「ここだったら、ベッドまで行けると思う。行って、ミィ」

「ありがとう」


ドアの前で言うと、美月ちゃんはするりと扉をすり抜けて中に入って行った。


「あーくん……!」


美月ちゃんの声が微かに聴こえた。
私は、廊下の窓の向こうにそっと光っている月をぼんやりと見上げていた。
頼りない儚い光は、遠くから流れてきた雲に隠れそうだった。

それからすぐに、美月ちゃんは、出て来た。


「あれ、ミィ、もういい、の……」


美月ちゃんは、何も言わずに私の体に重なってきた。
ドン、と押されるようにして、私は体の奥に納まる。
美月ちゃんは私の体を支配して、ドアを開けた。


ベッドの上に静かに眠る園田くんの前に立った美月ちゃんは、園田くんの頬に手を伸ばす。


「あー、くん」


小さく名前を呼ぶ。


「あーくん」


もう一度、そっと名前を呼ぶ。
園田くんの瞼が微かに痙攣した。

そして、園田くんがそっと目を開けた。
暗い部屋に戸惑うように瞬きを繰り返して、それから園田くんは立ち尽くす美月ちゃんを見て、「ああ、びっくりした」と言った。