「……ん、む。おはよ、ヒィ」

「起きた? ミィ」


美月ちゃんが目覚めたのは、日が暮れて空の上に月がほんのりと光る頃だった。


「うん。あれ? ここ、どこ?」


床から体を起こした美月ちゃんがぐるりと周囲を見渡す。


「病院だよ。あのね、園田くんが練習中に怪我をして、病院に運ばれたんだ」


今は、消灯時刻の十時をとうに過ぎていた。
総合病院のロビーはすっかり静まり返っていて、私と美月ちゃんの二人きりだった。


「嘘!」


美月ちゃんが体を起こす。
そして、私に「怪我って何! あーくんはどうなったの!」と叫んだ。


そんな彼女を安心させようと、私はまず「大丈夫」と言った。


「野球部の球が頭に当たって、少し意識失ってたんだ。だけど、大丈夫だから。
もう意識は戻ってるし、さっき少しだけ話も出来たよ、とりあえず今日一日だけ入院して様子みればいいって」


偶然にも、運び込まれた病院はワタルさんの勤務先だった。
ワタルさんは動揺している私を落ち着かせてくれて、そして帰りを送ってくれるという。
それで私は、ロビーで彼の仕事が終わるのを待っているのだ。


「ヒィ、どうして起こしてくれなかったの!」

「……起こしたよ」


顔色を変えた美月ちゃんに、小さく答えた。

何度も、起こした。
だけど、美月ちゃんは起きなかったのだ。

美月ちゃんの綺麗な顔が歪む。


「あたし、また……?」

「今日は色々あったから、きっと疲れてたんだと思う。だから……」

「あたし、また起きなかったんだ……。そ、っか。あーくんが怪我したっていうのに、あたし……」


座り込んで、美月ちゃんは床をしばらく見つめていた。
私の言葉も聞こえてないみたいに、呆然としていた。


果たして、「ヒィ」と私を呼ぶ