あの日のきみを今も憶えている

「二人とも、ありがとう」

「いえいえ。俺たちも、すげえ嬉しい!」


空っぽのお弁当箱を見て、二人はニコニコと笑った。


「弁当作りって、けっこうハマるな、ヒィ。なんか、すげえニヤニヤするわ」


園田くんが言うと、穂積くんも「そうそう」と頷いた。


「分かる! 私も最初、園田くんたちが美味しそうに食べてくれているのを見て、なんだか嬉しくって笑っちゃったもん。
さあもっとお食べなさい、みたいな気分になって」

「だな! 俺、もっと料理覚えようかなって思った」

「ぜひぜひ作ってよ。私と美月ちゃんが食べるから」


楽しく話していると、園田くんが「美月は?」と訊いてきた。


「ああ、疲れちゃったみたいで寝てる」

「そっか。喜んでくれたかな、美月」

「もちろんだよ。すっごく笑ってたじゃない」

「そっか」


園田くんが頬を掻いて、「よかった」と言った。


「どうやったら美月が笑ってくれるかずっと考えててさ。だから、安心した」


園田くんは、美月ちゃんを喜ばせるためには何をしたらいいのかと、ずっと頭を絞っていたのらしい。
それで、穂積くんにも協力してもらって、今回のお弁当になったのだとか。


「この間のお詫びじゃないけどさ、でも。やっぱ少しぎこちないし、今」

「うん。分かるよ」


美月ちゃんを喜ばせようというのは、他の女の子よりも制限があって難しい。
園田くんはきっといっぱい考えたんだろう。


「美月ちゃん、喜んでくれたと思う。園田くんの気持ちもちゃんと伝わってると思う。だから、大丈夫」

「俺もそう思うよ、杏里。さっきの笑顔に、陰とか感じなかったもん」


穂積くんも言葉を添えると、園田くんがにかっと笑った。


「そか、よかった!」

「だけど、園田くん無理しすぎだよ。目の下、クマできてる」


指摘すると、園田くんが慌てて顔を逸らした。
だけど、遅い。
もう、黒ズミに気付いちゃってます。


「レシピ、っつーの? あれ見ながら考え事してたら何か寝られなくって」

「それで、午後からの練習大丈夫なの? 無理しないようにね」

「ん、了解」


了解、なんて言うけれど本当に大丈夫だろうか。
どうも、ほとんど眠れていないようなきがするんだけど。

ていうか、もしかして眠れていないのは美月ちゃんとケンカになったあの日からじゃ、ないよね?
問うように見るけれど、園田くんは「大丈夫」としか言わなかった。