前日の夕方に連絡を入れていたので、美月ちゃんの御両親は二人揃って私を出迎えてくれた。


「ああ、福原さんよね。中学校の時、ずっと同じクラスだったわよね」


美月ちゃんに良く似た綺麗なお母さんは、私の事を覚えてくれていた。


「わざわざ来て下さって、ありがとう。美月もきっと、喜んでると思うよ」


穏やかそうなお父さんも、私を歓迎してくれた。


「急に、すみません。お休みまで取って頂きまして」

「いやいや、いいんだよ。社の方も、無理するなって言ってくれていてね」


私は和室に通された。
まだ、美月ちゃんが亡くなって四十九日法要も済んでいない。
部屋の奥には、桐の香りのする白木祭壇が組まれていた。
葬儀の時にも見た、美月ちゃんのひまわりのような笑顔の遺影が私を出迎えてくれた。

そこでお参りを済ませた私は、御両親に深く頭を下げた。両膝に乗せたこぶしをぎゅっと握り、必死に涙を堪えて。


「あらあら、泣かないで、福原さん」


お母さんが私の傍まで来て、手を握ってくれる。


「ありがとうね。美月のこと、そんなに思ってくれてたのねえ」


ぎゅっと握るお母さんの手は、少しだけ震えていた。
その瞬間、堪えた涙が溢れる。
頬を伝った涙は、顎先から落ちた。


「お母さん、お父、さん……。あたし。あたし……っ」


今、私を支配しているのは美月ちゃんだった。
せめて、触れ合えることができたら。
仮の体だとしても、目を見て、直接話すことができたら。

そう思って、ここに来る前に美月ちゃんに体を預けていたのだった。


「お母、さん……っ」


美月ちゃんは、お母さんに縋るように抱きついた。
泣き咽ぶ体を、お母さんは抱き留めてくれる。
背中を何度も撫で擦り、「ありがとう」と言う。


「ありがとう。美月のことを思ってくれてありがとう。あなたみたいに美月のことを思ってくれている人がいれば、その分だけ美月が生きた証になる。そして、私たちは美月を感じることができるのよ……」


お母さんの腕の中で、泣いて、泣いて。
そうして、美月ちゃんはお母さんが抱きしめる腕を解く瞬間に、私の体から抜け出た。


「あたしを愛してくれて、ありがとう」


抜け出た瞬間、美月ちゃんはそう声を落としたけれど、それは、彼らの耳には届かなかった。