それから鉛筆を黙々と走らせていると、陸上部の練習を眺めている美月ちゃんが口を開いた。


「ねえ、ヒィ。そのスケッチの中で、一番綺麗に描いている一枚を、くれない?」


え? と顔を上げると、美月ちゃんが「それをね、あたしの実家に持って行って欲しいの」と言った。


「ヒィの絵、すごく素敵だもの。お母さんたち、きっと喜んでくれると思うの」


にこりと笑う。私は、鉛筆の先を無意識に紙に押し付けてしまった。


「そ、それくらい!」


思わず大きな声を出しそうになって、慌てて声を潜める。


「それくらい、何枚でも持って行く。ていうか、ごめん。会いたいに決まってるよね……」


私って、なんでこんなに気が利かないんだ。
少し考えれば分かることだったのに。
園田くんのことばかり考えていたけど、美月ちゃんの両親に会いに行くということだって、大事じゃないか。


言われるまで気付かなかったなんて。
情けなくて、うなだれてしまう。


「ああ、そんなに気にしないで、ヒィ。でも、お願いできるかな」


返事の代わりにコクコク頷いた。

明日にでも、伺うようにしよう。
今私の目の前にいる、誰よりも可憐で可愛らしい美月ちゃんを、写し取って。
私はまっさらなページを開いて、鉛筆を握りしめたのだった。