部室では、私は美月ちゃんの姿をスケッチするのが恒例になっていた。


「あたしばっかり描いてて飽きないの、ヒィ?」


窓際に座った美月ちゃんに訊かれ、私はそっと頷く。
今日は出てきている部員の数が多いので、満足に会話ができないのだった。


「あたしばっかり描いて、楽しいのかなあ」


次も、頷いた。
美月ちゃんはモデルとしてとてもいい。
綺麗な髪も、顔立ちも、くるくる変わる表情も、とても魅力的だと思う。


「そんなものかなあ」


ふうん、と鼻を鳴らした美月ちゃんは、窓の外に視線を投げた。その先には、陸上部がいる。
ちらりと目をやると、園田くんと穂積くんの姿が見えた。
と、こちらを見上げてきた園田くんがひょいと手をあげる。
どうやら、私たちが見ていることに気が付いたらしい。


「ふふ、あーくん」


美月ちゃんが小さく笑う。
それから目で促されて、私が手を軽く振った。


「あれ、陽鶴先輩、今日もスケッチですか」


私の背後を通った、後輩の桜子がちらりとスケッチブックを見て言った。


「え? ああ、うん。まあね」


美月ちゃんを描いていると分かれば、色々訊かれるかもしれない。それはとても面倒なことになりそうなので、私はそれとなく閉じて、へらりと笑った。
桜子は私の向こうの窓の景色を見て、意味ありげに笑った。


「ああ、やっぱ陸上部ですか」

「あ。なに、その言い方」

「いや、だって陽鶴先輩ですもん。陸上部だよなあって思っただけです」


クスクスと笑って、桜子は「ごゆっくりー」と言って去って行った。


「ふふ、ヒィと大型犬二匹の噂って、そんなに広がってるんだ」


美月ちゃんが笑う。


「先輩を先輩と思わない、あの態度よねー」


私は曖昧に呟いて、再びスケッチブックを開いた。