あの日のきみを今も憶えている

「ん? なあに、美月ちゃん」

「寝る前のことなんだけど。
ヒィを一番辛い立場にさせてごめんね。あんなの、嫌だよね」


私は、シャーペンをぎゅっと握りしめて、「そんなことないよ。大丈夫」と言った。


「あと、園田くんには、何も言ってないよ」

「ありがとう。あたしすごく感情的になっちゃて、ダメだよねえ。どうしようもないのに、さあ」


背中で美月ちゃんのか弱い声がする。
きっと辛い顔をしていると思うと、私はなかなか振り返ることができなかった。

私は、美月ちゃんになんて言えばいいんだろう。

美月ちゃんと園田くんの擦れ違いを、私はどうすることもできない。
それはもう、誰であっても、美月ちゃんの言うとおりどうしようもないことだ。
だけど、だからといって『仕方ないよ』だなんて絶対に言いたくない。

返事を悩んでいると、美月ちゃんが少し明るい声を出した。


「あーくん、あたしのこと怒ってるかな」

「やだ、怒るわけ、ないでしょ。さっきだって、あんなに何回も心配する連絡してきてるんだよ?」


振り返ってベッドの上にいる美月ちゃんを見れば、彼女は天井を眺めたままだった。
私の方を見ないまま、「そっか」と言う。


「よかった。ケンカ、したくないもん」

「明日、美月ちゃんの調子が良かったら学校に行こう。お弁当は私が作るからさ」

「うん、よろしくお願いします」


そう言って、美月ちゃんはまた微睡むように目を閉じた。


「美月ちゃん、また寝ちゃうの?」

「んー、寝過ぎたから、かな? ちょっとうたた寝」

「今度は、起こしたらちゃんと起きてくれなきゃ嫌だよ?」

「だいじょーぶ! ちゃんと、起きるよ」


そう言ってすぐに、美月ちゃんはすうすうと寝息をたて始めた。


「本当に、大丈夫だよね?」


立ち上がり、彼女に近づいて顔を覗き込む。
少しして、寝返りを一度うったことに安心して、私は宿題を終わらせるべく机に戻ったのだった。