思わず足を止めた私だったが、すぐに歩き出す。
二人はとてもゆっくりと歩いていて、しかも時折足を止めてじゃれ合うものだから、抜かざるを得なかったのだ。
だって二人の先に、私の家があるんだから仕方ない。

しかも、二人の邪魔をしたくない、なんて考えてまごまごしていたら、夕飯の時間に間に合わない。
我が家の母は、時間厳守なのだ。
連絡なしに遅れたら、おかずを一品減らされかねない。
それは御免こうむる。


「お疲れさま」


通り抜けざまに声をかけると、美月ちゃんが「あ! 陽鶴ちゃんだ! 今帰り?」と微笑んだ。
その笑顔はひまわりの花がひらいたみたいに、可愛い。


「うん。二人も部活帰り?」

「そうなの。ほら見て、あーくんったら、部活のしすぎでこんなに日に焼けてるの。真っ黒すぎじゃない?」


大きな口を開けてケラケラと笑う美月ちゃん。
彼女はとても綺麗なのに飾ったところがなくて、とても自然体でいる。
だから、どれだけ人気のある園田くんと付き合っていたとしても、美月ちゃんを嫌う女の子はいなかった。

美月ちゃんに真っ黒に日焼けした腕を示された園田くんは唇を尖らせた。


「仕方ねえだろ、日焼けは! お疲れさま、福原さん」


園田くんがペコ、と頭を下げる。それだけで、あとは私の方なんて見ない。

園田くんは、本当に無愛想なのだ。
美月ちゃんの前では優しく笑うのに、他の子には決して笑わない。
必要以上に話したりもしない。
そういう『美月ちゃんだけ』なスタイルは、女の子たちにすごく好評だ。


「本当に、すごく焼けてるね。夏って感じ」


だから私は、美月ちゃんに向かって言った。

確かに、園田くんは暗がりでも分かるぐらい日焼けしていた。
真っ白の美月ちゃんと対比して、真っ黒に見える。


「でしょ? すごいよね」

「あ、熱中症にだけは気を付けてね。いっぱい水分摂らないと」

「大丈夫。毎日二リットルのペットボトル二本持たせてる!
塩分も必要だっていうから、梅干しも!」


美月ちゃんが、園田くんが肩にかけていた大きなスポーツバッグをポンポンと叩いた。