あの日のきみを今も憶えている

ああ、そうか。こういうことなんだ。


相手を思いやって言葉をかけるのも、
言葉を受けるのも。

笑いかけるのも、
笑いかけてもらうのも。

手を差し出すのも、
その手を受けるのも。


生きていなくては、できない。


同じ時を共に生きていなければ、できない。

それはとても当たり前なこと。
当たり前にあって、そして、失うと二度と手に入らないこと。
どれだけ求めても。


ああ、なんて大事なことなんだろう。
今まで、考えもしなかった。
とても、大切なことなのに、それは当然のように、あったから。。


「どうしたの?」


手を止めた私に、穂積くんが首を傾げる。


「ヒィちゃん?」

「ううん。何でも、ない……」


手を乗せれば、しっかりと掴んでくれる。熱を感じる。
私は、生きてる。
私は泣き出しそうになりながら、手を握り返した。


「えっと、ヒィちゃん? 行こっか?」

「うん」


ぎこちないだろうけど精一杯、笑う。
そうしたら、穂積くんが驚いたように目を大きく見開いた。


「どうしたのさ、ヒィちゃん」

「今、すごく、生きてるってことの根っこを知った気がしてるんだ、私」

「ふ、うん?」


何か言いたげにしていた穂積くんだったが、黙って私の手を引く。
私は引き寄せられるようにして、立ち上がった。


「とりあえず、美味しい物でも食べようか」


穂積くんの言葉に、頷いた。