七月も半ば。
暑さが日増しに厳しくなってきているけれど、夕方になると心地よい風が吹く。
美術部の部室で画材の手入れをした私は、薄墨の広がり始めた空を見上げながら、一人帰っていた。
オレンジ色と群青色、深い黒がゆっくりと混じり合う空はいつまで見ていても飽きない。


「あ。フェルメールブルーだ。綺麗」


無限大のキャンバスに、一際煌めく青を見つけて、指で作ったファインダーで囲う。
偉大なる画家が愛した、ラピスラズリを溶いた色は、私の一番好きな色でもある。

ふんふんと鼻歌を歌いながら、のんびりと歩く。
そんな私の足を止めたのは、先を歩く二人の後姿だった。


仲よさ気に手を繋いで歩いている一組。
それは、隣のクラスの園田(そのだ)くんと美月(みつき)ちゃんだった。


二年二組、園田杏里(そのだ・あんり)くん。

背が高く(180を超しているという話)、顔立ちがとても整っている。

意志の強そうな深い黒の瞳が魅力的で、高すぎず低すぎずのしゅっと通った鼻筋。
女の子からの人気がとても高い。

容姿だけでなく運動神経も抜群で、所属している陸上部でも誰よりも足が速いというのも、魅力の一つ。
性格はというと、無愛想……いやいやクールで冷静。
休み時間に箒でバトルとか絶対しない、少し大人びた印象。
我が校でも指折りの、イケメン人気男子である。


そして、樋村美月(ひむら・みつき)ちゃんは、その園田くんが長年付き合っている彼女だ。
背の高い園田くんと並んでいても全くひけをとらない長身の持ち主で、モデルのような体形をしている。

顔立ちはとてもとてもかわいらしく、肌なんて陶器みたいにつるつるで、腕利きの職人が作ったビスクドールみたいだ。
背中の中ほどまで伸びた栗色の髪は緩くウェーブがかっていていて、一本一本が絹糸のよう。
身内自慢になってしまうかもしれないけれど、美貌の姉の千鶴とどちらが、と思わせる完璧な美少女だ。


そんな美月ちゃんはブラスバンド部に所属していて、ブラバンでも花形の、トランペットを担当している。
彼女の吹くトランペットはとても澄んだ音をしていて、そしてその佇まいがとても綺麗で、私はしばし彼女の姿に見惚れたこともある。

イケメン園田くんの彼女として、彼女以上の人はいないと思わせる、最高の子だ。

素敵な二人は、中学生のころから付き合っていて、校内では「おしどり夫婦」だなんて呼ばれている。

その呼び名に納得しない人はいない。
だって二人は本当に、その言葉がぴったりなくらいお似合いだから。