「……何が、あったの?」
長い時間、園田くんは黙っていた。そして、絞り出すように、「キス、しようとした」と言った。
「は?」
「俺、キスしようとしたんだ。ずっと好きだよって、言って、それで」
「……。それは、美月ちゃん、怒るよ」
だって、美月ちゃんだけど、体は、美月ちゃんじゃない。
「うん。分かってる、分かってたはずなんだ。俺、ホントにバカだ」
園田くんの言葉を聞きながら、じんじん痺れたままの手のひらを見つめる。
真っ赤になった手の痛みはきっと、美月ちゃんの痛みに遠く及ばない。
だけど、美月ちゃんの痛みの欠片だ。
「ヒィにも、申し訳ない。ごめん。嫌だよな」
「私は、いいんだよ。そんなの」
「謝らせてくれよ。ごめん。ヒィの好意を踏みにじるようなことしたんだ、俺」
園田くんは、俯いたままゆっくりと話を始めた。
私は痛む手をぎゅっと握って、黙って耳を傾ける。
目の前に広がる池には、花盛りの睡蓮が花開いていた。
白や薄桃色の花が、繊細に美しい。
「俺の頬を叩いて、コレは本当のあたしじゃない、って美月が言った。確かに、そうなんだ。体は美月じゃない。でも、真ん中の大事な部分は、美月じゃん。だからさ、俺……」
「うん。それは、分かるよ。分からないわけじゃない」
睡蓮たちの中に、私は青い睡蓮を見つけた。
薄い、儚いブルー。
すっと細い首を持ち上げて、青い花は凛と咲いている。
青い睡蓮は、モネが手に入れたいと生涯夢見て、
とうとう手に入らなかった幻の睡蓮と言われている。
彼は想像の中で睡蓮を思い描き、キャンバスに咲かせた。
キャンバスの中で咲き誇る、とても美しい光を纏った青い睡蓮。
モネにとって、その青い睡蓮は永遠になったのだろうか。
長い時間、園田くんは黙っていた。そして、絞り出すように、「キス、しようとした」と言った。
「は?」
「俺、キスしようとしたんだ。ずっと好きだよって、言って、それで」
「……。それは、美月ちゃん、怒るよ」
だって、美月ちゃんだけど、体は、美月ちゃんじゃない。
「うん。分かってる、分かってたはずなんだ。俺、ホントにバカだ」
園田くんの言葉を聞きながら、じんじん痺れたままの手のひらを見つめる。
真っ赤になった手の痛みはきっと、美月ちゃんの痛みに遠く及ばない。
だけど、美月ちゃんの痛みの欠片だ。
「ヒィにも、申し訳ない。ごめん。嫌だよな」
「私は、いいんだよ。そんなの」
「謝らせてくれよ。ごめん。ヒィの好意を踏みにじるようなことしたんだ、俺」
園田くんは、俯いたままゆっくりと話を始めた。
私は痛む手をぎゅっと握って、黙って耳を傾ける。
目の前に広がる池には、花盛りの睡蓮が花開いていた。
白や薄桃色の花が、繊細に美しい。
「俺の頬を叩いて、コレは本当のあたしじゃない、って美月が言った。確かに、そうなんだ。体は美月じゃない。でも、真ん中の大事な部分は、美月じゃん。だからさ、俺……」
「うん。それは、分かるよ。分からないわけじゃない」
睡蓮たちの中に、私は青い睡蓮を見つけた。
薄い、儚いブルー。
すっと細い首を持ち上げて、青い花は凛と咲いている。
青い睡蓮は、モネが手に入れたいと生涯夢見て、
とうとう手に入らなかった幻の睡蓮と言われている。
彼は想像の中で睡蓮を思い描き、キャンバスに咲かせた。
キャンバスの中で咲き誇る、とても美しい光を纏った青い睡蓮。
モネにとって、その青い睡蓮は永遠になったのだろうか。