次の朝、通学途中に美月ちゃんが私に「お願いがあるの」と言った。


「お願い? なに?」

「あの、あのね」


もじもじと恥ずかしそうに俯いて、美月ちゃんはそっと言った。


「あーくんと、デートしたいの」

「デート」


ほう、と目を見開いた。
そんな私を見て、美月ちゃんが顔を真っ赤にする。


「あ、あの! 今みたいに電話でも全然いいんだけど。でも、二人で会ってお話ができたらなって! それだけなの!」


なるほど、そうか。
考えてみれば、いつも私と穂積くんがいて、美月ちゃんたちは二人きりになれないのだ。
カップルというのは二人きりの時間を楽しむものだ、うん。
そのようなことが、漫画にも描いてある。


「そうだよね。そういうこと、考えるよね、うん」


腕を組んで、頷く。
哀しいことにそういった男女の経験値が低いせいで、全然考え至りませんでした。
すみません。

ふむ。
出来ないことはない。
私は眠ってしまえばいいわけだし。


気になるのは、他の女の子たちが二人の邪魔をしないか、ってことだよなあ。

今のところ穂積くんが目を光らせてくれてるから問題ないけど。
だけど、穂積くん抜きで私と園田くんが会っていて、しかもなんか妙に仲がいいとなれば、油田に火炎放射器レベルの問題になってしまう。


「とりあえず、今日のお昼に穂積くんにも相談してみよう。
どこで会えばいいかとか、そういうアドバイスを受けよう」


私は経験値ゼロだし、美月ちゃんや園田くんはあまり人目を気にしていないフシがある。
こういう時にどうしたらいいかを考えてくれるのは、穂積くんしかいないだろう。


「ホント⁉ いいの⁉」

「全然いいよ、それくらい。今まで気付いてあげられなくってごめんって思うくらい」

「ありがとう! ヒィ!」

「えー、そんなお礼言うほどじゃないって。私、TDR行きたいとか言われたらどうしよう、とか考えてたもん。お小遣い使い過ぎちゃって今お金ないし! とか」


笑って言うと、美月ちゃんも笑った。


「あたし、着ぐるみ怖いヒトだからそれは大丈夫! 近寄ってきたら泣いちゃう」

「え、マジすか。私、けっこう好き……。ドナ○ドとか見かけたら反射的に抱きつくタイプ」

「うそー。ヒィってそういうの冷めた目で見てそうなのに!」

「それが、そんなことないんだよねー。自分を見失うくらい興奮しちゃう」


美月ちゃんとクスクス笑いながら学校へ向かう。
塀の上にいたネコが、不思議そうにこちらを見ていた。