「あはは、もういいって。あ、でもお礼がしたいんなら、私に冷たいオレンジジュースを買ってきてくれないかなー。喉乾いちゃってる」

「オレンジジュースだな、分かった。果汁100パーセントでいいか?」

「うん。お願いしていい?」

「わかった! ちょっとだけ待ってろ」


園田くんは言うなり、昼下がりの暑い日差しの中に駆けだして行った。
真っ白いシャツが光を浴びてキラキラと輝いて見えた。


「さすが陸上部。早いねー。あっという間に背中が見えなくなった」


手を翳して眺めていると、穂積くんが「不思議だ」としみじみと呟いた。


「目の当たりにしていても、本当に不思議だな」


首を傾げて穂積くんを見た。


「不思議って?」

「いや、まあ中身が違うんだから当たり前なんだろうけどさ、表情とか仕草が本当にガラッと変わるんだよね。途中からは、ヒィちゃんじゃなくって美月ちゃんとしか見えなかった」

「へえ、そんなに違うもの?」


我が家の親や姉は全然美月ちゃんに気が付かなかったけどなあ。
って、あのときは美月ちゃんが『陽鶴』のフリをしてたからかな。


「……って。ヒィって呼んだ?」


何でその呼び名を知ってるのさ。
そういえばさっき園田くんもそう呼んでた? と思って訊けば、穂積くんは笑った。


「美月ちゃんがずっとヒィ、ヒィって呼ぶもんだから、うつった」

「え、そんなに呼んでたの?」

「うん。話の大半はヒィちゃんの話だったよ。美月ちゃん、よほどヒィちゃんのことが好きなんだなあって思った」

「ま、まあ、毎日一緒にいるしさ、うん」


少し恥ずかしくなってしまう。
顔を背けてカリカリと頭を掻く。
だってちょっと嬉しい。
私の知らないとこで、そんなに話をしてただなんて。


「あ、ヒィちゃん照れた」

「見ないでよ」

「見る。可愛いよねー、ヒィちゃん」

「な! からかってるでしょ!」

「からかってないって」


わあわあと言い合いをしていると、「お待たせ!」と園田くんが息を切らせて駆け込んできた。