「正しいと思ったことをする。
私にそんなことを教えてくれた美月ちゃんの前では、特にそう思う。
ちゃんと、教えてくれたことを覚えてるよ、って態度で伝わって欲しいと思う。
あ、わざわざ言うつもりはないんだ。そんなの押し付けがましいしかっこ悪いじゃん」


私は美月ちゃんを見て、それから穂積くんに顔を向けた。


「なんて、色々言ったけど。本当のところは単純に美月ちゃんが好きだからだと思う」


えへへ、と笑う。


「好きな友達のためだったら、『犠牲』なんてこと考えないよね。
穂積くんだって、園田くんの犠牲になって毎日一緒に過ごしてるわけじゃないでしょ?」

「……うん、確かに」


穂積くんが優しく微笑んだ。


「陽鶴ちゃんってさ、超いい子だね」

「は?」

「いや、ありがと。そうだよな、うん。話ができて良かった」


何だか勝手に納得して、穂積くんは私の頭をぐしゃぐしゃと掻き回すようにして撫でた。


「ふあ! な、何すんの!」

「すげえいいわ、陽鶴ちゃん」

「はあ?」

「いや、何でもない。あ、これ俺のアドレスとlineのID。連絡しておいて。じゃあ、またあとでね」


私の手に紙を押し付けて、穂積くんはグラウンドの方向へ駈け出して行った。
と、足を止めて振り返る。


「何かあったら、これからは速攻連絡して! これ、約束ね!」


言って、今度こそ駆けて行った。


「なんだ、あれ」

「ぐふふ、もしかして、もしかする⁉」


急に美月ちゃんの声がして、見れば眠り姫が大きな欠伸をしながら体を起こすところだった。


「美月ちゃん⁉ い、いつ起きたの!」


話、聞かれてた!

慌てる私に、美月ちゃんはのんびりと、「穂積くんが、ヒィの頭を撫でてたところから」と言った。
よかった。そこからなら、問題ない。
美月ちゃんは伸びをして、ぐふふ、と美少女にあるまじき笑い声を上げた。


「あれはもしかしてもしかするね、うん!」


立ち上がった美月ちゃんは、私を見下ろしてまじまじと見る。


「ヒィの良さは、貝ひもやさきイカに通ずるものがあるからねえ」


ごめん、意味わかんない。
私、乾物に似てるってこと?
それって、ちょっとひどくないですか?

私は何度も美月ちゃんに訊いたのだけれど、彼女はニヤニヤと笑うだけで答えてくれないのだった。