「私はね、真面目って素敵なことだと思うわ」
不意に木村が呟いた。ハスキーな声はまだ少し震えていて、笑いを堪えて切れていない。
しかし彼はその声に、不快感は抱かなかった。
「でもずっと真面目で肩肘張ってたら、誰だって生きるのやめたくなるわよ」
たまには息抜きでもしたら、と口癖のように言う両親。そんなことをしたら、さらに一位から遠ざかってしまう。何度そう思ったことだろう。
あれこれ考えながらずっと勉強だけをしていた。その結果自分は屋上へと向かった。
そんなことをしなくても、道はたくさんあるということに気付かずに。
「ねえ、こういうのも楽しいでしょ?」
木村が艶のある黒髪を揺らしながら、彼の顔を覗き込む。
大きく息を吸えば、強烈な汗と泥の匂いに混じって、グラウンドの土の匂いや雨の匂いがした。
彼は素直に頷く。
すると満足気に木村は笑って、入部する気になったか、答えは分かっているくせに聞いてきた。
彼はその問いにゆっくりと口角を上げて、首を振る。