「なに、気にしてんの? この前ヒゲさんに言われたこと」
「え、いや、えっと、……まあ、うん」
ヒゲさんというのは、米川さんの所属しているジャズバンドでコントラバスを弾いているおじさんのこと。
あれから私は、定期的に米川さんたちが練習しているところに混ぜてもらってジャズの練習をしていた。
聴いているだけだと、ただ楽しそうで自由で遊んでいるような音楽なのに、実際に吹いてみるとかなり難しくて。
「“葵ちゃんはジャズ畑に生えたリモコンみたいだね~”だっけ?」
苦戦する私にヒゲさんは何気なく言ったのだけれど、そのたとえがとても秀逸で、私は項垂れるしかなかった。
今まで私がやってきた吹奏楽部でのトランペットとジャズのトランペットでは、求められていることがまるで違う。
そこに私は魅力を感じたのだけれど、そう簡単にいくことではなかったのだ。
「紫陽花は土によって色を変えるのに、音楽のジャンルによって音を変えるのはなかなか難しいね……」
「難しく考えすぎなんじゃないの。もっと楽にふらふら吹いて、合わせるところ合わせてさ」