たまらん。

一言で表すとこの言葉に尽きる。



村瀬さんと真央くんとの奇妙なデート(?)から数日。私はジャズを聴き漁っていた。

アート・ブレイキーのモーニン、ビル・エバンスの枯葉、デイブ・ブルーベックのテイク・ファイブ、ビリー・ストレイホーンのA列車で行こう、グレン・ミラーのムーンライト・セレナーデ……。

初心者にもおすすめなジャズ曲をグーグル先生に教えてもらって、とにかく聴いた。どこかで聴いたことのあるメロディーも多く、私がその世界にハマるのはあっという間だった。


教壇で古典の先生が宇治拾遺物語を朗読している。教室の生徒の半数近くはすでに脱落し、眠りについていた。この先生、絶対アルファ波出してると思う。

前の席の寺島さんの頭がゆらゆらと揺れているのを眺めていた私は、そっと廊下側の一番後ろの席へと視線を映した。


明るい髪色の一匹狼米川さんは、意外とちゃんと授業を聞いているらしい。机の上には教科書もノートもきちんと開いて並べてあって、チャラチャラしてそうな割りに真面目なんだなとぼんやり思う。

米川さんはいつからジャズをしているのだろう。トランペットの上を楽しげに動く指はなめらかで、ハイトーンも綺麗に出ていた。

ああやってカフェで演奏していたということは、半分プロみたいな感じなのかな。これ聴いとけって曲あったりするかな。