「やべ……」

哲也が驚いたようにあたしから離れた。

急いで起き上がると、コンクリートに血の染みがボタボタと落ちた。

手でおさえるけど、すぐに真っ赤に染まる。

「お、お前。このこと言うなよ!」

哲也がすばやく立ち上がると、逃げるようにして走ってゆく。

それをあたしはなぜか冷静な気持ちで見送った。


犬だから。


あたしは、犬だから。

こうしてみんなにいいように使われるんだ……。


鼻を拭きながら、屋上から3階に通じる階段をおりてゆくと、千夏がひとりで立っていた。

あたしの顔を見ると、眉間にしわを寄せた。

「純子。今さ、哲也来たでしょ?」

「……」